【伊藤の履歴書】vol.10 9番。

代表伊藤の履歴書 2014.02.05

少しずつではありますが、自分を指名して来てくださるお客様が、1日に、少ない日でも2、3名様は来てくださるようになってきて、同じ時間帯に複数名のお客様を掛け持ちで担当させてもらうことも増えてきました。

 

 

 ◇立ちはだかったステージ

 

 

当時私が勤務していたサロンは、ヘアカットを担当するスタイリストの人数の方がアシスタントよりも多いサロンでしたので、必然ひとりのスタイリストが複数名のお客様を担当させていただくことになれば、効率よく仕事をしていかなければすぐにお客様をお待たせしてしまいます。

 

 

当時駆け出しスタイリストの私でさえ、複数名のお客様を担当させていただくことがあったほどですから、店長やチーフ(副店長)になれば、同じ時間帯に5~6名のお客様を担当されていることも珍しくなく。

 

 

やはりこれもまた必然、キャリアの浅い私に、常時ヘルプをしてくれる(私に代わってシャンプーやヘアカラー塗布などをしてくれる)アシスタントはつけるはずもなく。

 

 

ひとりで複数名のお客様に目配せ、心配りをしていかなくてはなりませんでした。

 

 

 

◇あ、た、ふ、た。

 

 

お客様からいただくひとつひとつのご指名が、何をさしおいても大切だった当時の私にとっては、そのご指名のお客様が重なって3名様、4名様と連なってお越し下さることはとてもうれしいことだったのですが、半面全てのお客様をお待たせせずに、喜んでいただけるようにお仕事をする自信のなかった私は、ただただ「慌ててしまう」ばかり。

 

 

 

あわててカットするあまり、ハサミで指を切ってしまったり、パーマを巻くロッドを落としてしまったり、お客様への心配りにかけてしまったり。

 

 

 

すっかり視野が狭くなってしまうばかりなのでした。

 

 

◇隠語

 

 

お客様をお招きして施術をする私たちの仕事。

 

 

スタッフ間のコミュニケーションのなかには少なからず隠語が存在しています。

 

 

たとえば、お手洗いに下がるような場面、食事休憩に入るような場面等。

 

 

アルファベットであったり、数字であったり、お客様に伝わらせたくない、伝える必要のない内容をサロンによって様々な隠語を通して伝え合います。

 

 

その中で当時の私にとってとても印象深かったのが、タイトルにも挙げた、

 

 

「9番」。

 

 

「急ぎましょう。」という意味合いの隠語です。

 

 

 

 

これ以上なく、急がなくてはお客様をお待たせしてしまうことが分かって仕事をしているところに先輩方からかけられる、

 

 

「伊藤さん、9番で お願い致します!」

 

 

 

くううおおおおーーーーもぉおおお急いでるじゃんかぁああああーーー!!!」

 

 

 

心中、正直悔しい思いを抱えながらも、、、。

 

 

 

お客様に悟られるわけにはいきません(が、かなりの確率で悟れらていたことでしょう・笑)。

 

 

 

ぐっとこらえてニコッ(、、、とも、勿論できませんでしたが。)

 

 

 

「はい、かしこまりました!」

 

 

 

(^^;;;;;;;) ←まさに、こんな顔文字がぴったり来る感じです。

 

 

 

 

◇スピードという財産

 

 

 

施術のスピードというトピックには、美容師の間でも、お客様の間でも様々な価値観があります。

 

 

「スピードこそ最大のサービス」という美容師もあれば、「早いというだけでお客様が喜んでくれる訳ではない」という美容師もあり。

 

 

「早くやってもらえる」に価値を見いだされる方もあれば、「じっくりゆっくり担当スタイリストの方にだけ施術をしてもらいたい。」に価値を見いだされる方もあり。

 

 

 

特に「正解」を追求する種類の議論ではないと思いますが。少なくとも私にとってこの当時の、スピードを追い求めていく体験は、のちのちとても大きな財産となりました。

 

 

サロンワークはひとつの鏡の中だけでするものではなく、フロア全体、チームワークで行っているものであるということ。自分を指名して下さるお客様ばかり数えて仕事をするのでなく、お店のお客様全体、スタッフ全体の動きを見て、知恵を出して、工夫を重ねること。

 

 

「フロアの空気の流れをつかみなさい」という言葉でアドバイスをもらったこともありました。

 

 

フロアを歩くスピード、施術に必要となる材料の準備の手際、コーム(くし)でお客様の髪を梳かす回数、ドライヤーで髪を乾かす時間、最後のお会計の際の手際、一つ二つ三つ先の仕事まで見通して今の仕事に当たること。

 

 

 

スピードを求められることがなければ改善されることのなかったスキルばかりです。

 

 

経験に勝るものなし。最初は慌てて単純なミスばかりしてしまったり、狭くなるばかりだった視野も経験とともに、次第に拓けてくるものです。

 

 

 

そんなこんな、スタイリストとしての飛躍のときは少しずつ、少しずつ、近づいてくるのでした。

 


(つづく)